マニュアルを超えて連携!相手と「同じ絵」を見るための思考トレーニング
マニュアル通りの業務であれば、手順書に従うことで認識のズレは起きにくいかもしれません。しかし、一度マニュアルから外れた状況、例えば新しいプロジェクトの推進、突発的なトラブル対応、あるいは前例のない課題に取り組む際には、関係者間での認識のズレが思わぬ落とし穴となることがあります。
「言ったはずなのに伝わっていなかった」「前提が違っていて手戻りが発生した」「お互いの考えているゴールが違った」といった経験は、多くのビジネスパーソンが直面することではないでしょうか。こうした認識のズレは、指示待ちから脱却し、自ら考えて行動する際に特に重要になります。なぜなら、自律的な行動は他者との連携なしには成り立たず、その連携の質は共通理解の深さに大きく左右されるからです。
本記事では、マニュアル外の状況で他者と「同じ絵」を見るための、具体的な思考トレーニング方法をご紹介します。日々の業務の中で意識することで、連携の質を高め、よりスムーズに自律的な行動ができるようになるはずです。
なぜ、私たちは「違う絵」を見てしまうのか?
共通理解を深めるためのトレーニングに入る前に、なぜ認識のズレが起きてしまうのか、その要因を理解しておきましょう。主な要因は以下の通りです。
- 言葉の解釈の違い: 同じ言葉でも、背景にある知識や経験によって異なる意味で捉えられることがあります。
- 前提情報の違い: 関わっている情報量や、共有されている前提知識に差があると、そこから導き出される考えや判断が異なってきます。
- 視点や立場の違い: 部署や役割が異なれば、物事を見る視点や重視する点が変わります。
- 目的やゴールの違い: 目標としている最終形や、それに至るまでの優先順位が一致していないことがあります。
- 非言語情報の不足: 文章や口頭だけのやり取りでは、トーンや表情といった非言語情報が伝わりにくく、意図が正しく伝わらないことがあります。
これらの要因が複合的に絡み合い、お互いが異なる「絵」を見ている状態が生まれます。
共通理解を深めるための基本的な考え方
他者と「同じ絵」を見るためには、以下の基本的な考え方を常に意識することが大切です。
- 相手の視点に立とうとする: 自分が知っている情報を相手も知っているとは限りません。相手の立場や知っているであろう情報量を想像し、どのように伝えれば理解しやすいかを考えます。
- 「分かったつもり」にならない: 相手の言葉を聞いている時に、「分かった」と早合点せず、不明な点は素直に確認する姿勢が重要です。
- 具体性と明確さを追求する: 曖昧な表現や抽象的な言葉を避け、具体的な事例や数値を用いて説明することを心がけます。
- 一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションを意識する: 自分の考えを伝えるだけでなく、相手の理解度や考えを確認する問いかけを積極的に行います。
実践!共通理解を深めるための思考トレーニング
ここでは、日々の業務で実践できる具体的なトレーニング方法をいくつかご紹介します。短時間で取り組めるものもありますので、ぜひ試してみてください。
トレーニング1: 「問いかけ」習慣で前提と意図を確認する
これは、相手の発言に対して、その背景にある前提や意図を確認する問いかけを意識的に行うトレーニングです。
- 具体的な問いかけ例:
- 「〇〇とおっしゃいましたが、それは具体的にどのような状況を想定されていますか?」
- 「この△△という言葉は、ここではどのような意味で使われていますか?」
- 「そのように考えられた背景には、どのような情報がありますか?」
- 「この提案の目的は、▲▲という認識で合っていますか?」
- 「この点は、⬜︎⬜︎さん(別の方)にも共有されていますか?」
実践のヒント: まずは、一日の会話の中で、意識してこのような問いかけを3回行う目標を立ててみましょう。特に、少しでも「あれ?」と感じた時、あるいは重要な決定に関わる会話の中で試すのが効果的です。相手の前提や意図が明確になることで、自分の解釈とのズレに気づくことができます。
トレーニング2: 「図解化・視覚化」で思考を共有する
頭の中にある考えや、話し合いの内容を簡単な図や箇条書き、フローなどで視覚化し、相手と共有するトレーニングです。
- 具体例:
- 会議中にホワイトボードに簡単な概念図を書く。
- メールで説明する際に、図や箇条書き、表を挿入する。
- 自分のタスクや考えを整理する際に、マインドマップやリストを作成し、必要に応じて共有する。
- お客様への提案内容を、構成要素ごとに分解して図示する。
実践のヒント: 複雑な内容を説明する際や、複数の要素が絡む問題を考える際に、「どうすれば絵に描けるか?」と考えてみましょう。完璧な図である必要はありません。ポイントは、視覚的に共有することで、お互いの理解が進むかどうかです。まずは自分の思考整理として図解化を取り入れ、慣れてきたら他者とのコミュニケーションでも試してみましょう。
トレーニング3: 「要約・確認」サイクルで理解度を測る
相手の話や指示を聞いた後、一度自分の言葉で要約し、「こういう理解で合っていますか?」と確認する習慣をつけるトレーニングです。これはアクティブリスニングの一環でもあります。
- 具体例:
- 上司からの指示を聞いた後、「〇〇様の指示は、△△の納期までに、××の手順で▲▲を完了させる、という理解でよろしいでしょうか?」と確認する。
- 打ち合わせの終わりに、「本日の決定事項は、⬜︎⬜︎と⬜︎⬜︎で、ネクストアクションは私が△△、Aさんが▲▲を来週までに行う、ということで合っていますか?」と参加者全員に確認する。
- お客様からの要望を聞いた後、「つまり、一番重視されているのは□□の改善という理解でよろしいでしょうか?」と聞き返す。
実践のヒント: 全ての会話で行う必要はありませんが、特に誤解が生じると大きな影響がある場面(新しいタスクの指示、重要な情報の共有、決定事項の確認など)で意識的に行いましょう。これにより、自分の理解の誤りに気づけるだけでなく、相手も正確に伝わったかを確認できます。
トレーニング4: 「共通の前提確認」ワーク
新しいプロジェクトやタスクを開始する際、あるいはチームで話し合いを始める前に、参加者間で意識的に「共通の前提」を確認するワークです。
- 具体例:
- 「この件について、現時点で皆さんが知っている情報や、認識している課題は何ですか?」と問いかける。
- 「今回の打ち合わせで、私たちが目指すゴールは何でしょうか?」と明確にする。
- 「このテーマに関連する過去の経緯や、現状の制約事項について、認識を合わせたいのですが、何か共有事項はありますか?」と尋ねる。
実践のヒント: 短時間のミーティングでも、冒頭で「今日のゴールは、〇〇を決定することです」と共有するだけでも効果があります。少し時間をかけて行う場合は、簡単な質問リストを用意しておくとスムーズです。このワークは、特に複数人が関わる場合に、早い段階で認識のズレを防ぐのに役立ちます。
短時間でできる!日常業務でのヒント
これらのトレーニングは、特別な時間を取らなくても、日々の業務の中で少し意識するだけで実践できます。
- 通勤時間: 今日予定している相手との会話で、どんな前提が違う可能性があるか、どんな「問いかけ」をしてみるか、シミュレーションしてみる。
- メール作成時: 複雑な内容を書く際、一度箇条書きにしてみたり、図解化できないか考えてみる。相手がどう受け取るか、相手の立場になって読み返してみる。
- チャットでのやり取り: 簡潔に済ませたい場合でも、重要な確認事項は「〇〇という理解で合っていますか?」と一言添える癖をつける。
- 会議中: 発言する前に、「これは、参加者全員が知っている前提だろうか?」と一瞬立ち止まって考えてみる。他の人の発言に対して、「問いかけ」「要約・確認」を試す。
まとめ
マニュアル外の状況で自律的に考え、行動するためには、他者とスムーズに連携し、共通理解を深めるスキルが不可欠です。「相手と『同じ絵』を見る」ための思考トレーニングは、特別なものではなく、日々のコミュニケーションの中で意識し、実践することで着実に身につけることができます。
今回ご紹介した「問いかけ」「図解化・視覚化」「要約・確認」「共通の前提確認」といったトレーニングは、どれもすぐに取り組める具体的な方法です。最初から完璧を目指す必要はありません。まずは一つ、自分の取り組みやすいものから意識して実践してみてください。
これらの思考トレーニングを通じて、他者との認識のズレを減らし、連携の質を高めることは、あなたの自律的な行動範囲を広げ、マニュアルを超えた場面で大きな力を発揮することにつながるはずです。日々の小さな意識の変化が、あなたのビジネスパーソンとしての知恵を育んでいきます。