多様な意見から最善を見つけ出す!マニュアル外で活きる合意形成の思考トレーニング
マニュアル通りの業務であれば、関係者との意見の食い違いは起こりにくいかもしれません。しかし、一度マニュアルから外れた状況に直面すると、多様な立場や考え方を持つ人々との間で、意見が衝突したり、なかなか方向性が定まらなかったりすることが増えます。
このような状況で、「どうすれば皆が納得できる最善の方向に進めるのだろうか」「自分の意見をどう伝え、相手の意見をどう理解すれば良いのだろうか」と悩むことは少なくありません。指示を待つだけでは解決せず、自ら状況を整理し、関係者の「知恵」を引き出し、より良い結論へと導いていく力が求められます。
この記事では、マニュアル外の状況で発生しやすい意見対立や、複数の意見が混在する状況において、多様な考えを統合し、関係者が納得できる最善解を見つけ出すための「合意形成」に役立つ思考法と、そのトレーニング方法をご紹介します。
マニュアル外の状況で合意形成が重要になる理由
なぜ、マニュアル外の状況で特に合意形成のスキルが重要になるのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 状況の不確実性: マニュアルがない状況は予測不能な要素が多く、一つの正解が存在しない場合がほとんどです。多様な視点から情報や意見を出し合うことで、リスクを減らし、より網羅的な対応策を見つけやすくなります。
- 関係者の多様性: マニュアル外の課題は、部署を横断したり、顧客や外部パートナーと連携したりするなど、関わる人々の立場や利害が異なることが多いです。それぞれの意見を尊重し、共通の目標に向かうための合意形成プロセスが必要になります。
- 結果の質の向上: 一方的な指示や、一部の意見だけで決まった方針は、現場での実行が難航したり、予期せぬ問題を生じさせたりすることがあります。関係者が主体的に関わって合意形成された結論は、実行段階での協力を得やすく、結果として質が高まる傾向があります。
マニュアルに頼らず、自ら考えて動くためには、単に自分の意見を持つだけでなく、他者の意見を理解し、建設的に統合していく能力が不可欠なのです。
合意形成のために養いたい思考要素
合意形成を円滑に進めるためには、いくつかの思考要素を意識的に鍛えることが有効です。
- 相手の立場を理解する思考: 相手がなぜその意見を持っているのか、どのような背景や目的があるのかを深く理解しようとする姿勢です。自分の考えだけでなく、相手の視点に立って物事を捉えることで、対立ではなく対話の糸口が見つかりやすくなります。
- 共通点と相違点を整理する思考: 複数の意見が出た際に、感情的に反発するのではなく、「何が共通していて、何が異なっているのか」を冷静に分析・整理する力です。論点を明確にすることで、議論が噛み合いやすくなります。
- 前提や事実関係を確認する思考: 出された意見の根拠となっている情報や、 unspoken な前提を問い直す力です。誤解や不正確な情報に基づいた意見は、合意形成を妨げます。共通の事実認識を持つことが出発点となります。
- 代替案や折衷案を発想する思考: 対立する意見がある場合、どちらか一方を選ぶのではなく、両者の良いところを取り入れたり、全く新しい視点から解決策を生み出したりする力です。創造的な発想が、膠着状態を打開することがあります。
- 全体最適を考える思考: 個々の意見や部署の都合だけでなく、組織全体やプロジェクト全体の目標にとって何が最善かを常に意識する力です。より高い視点を持つことで、個別の意見の調整がしやすくなります。
これらの思考要素は、日々の少しの意識とトレーニングで養うことができます。
日常業務で取り組める合意形成のための思考トレーニング
特別な時間を取る必要はありません。普段の業務の中で意識するだけで、合意形成に役立つ思考力を鍛えることができます。
トレーニング1:会議や打ち合わせの「なぜ?」を深掘りする(5分〜)
会議や打ち合わせで、誰かが意見や提案をした際に、「なぜこの人はそう考えるのだろう?」と意識的に考えてみましょう。 * その意見の背景にある事実は何か? * その人が最も重視していることは何か? * その意見が通らない場合、その人や関係者にとってどのような影響があるか?
実際に本人に尋ねるだけでなく、まずは頭の中で仮説を立ててみる練習です。短い会議の休憩時間や移動中など、隙間時間に取り組めます。
トレーニング2:異なる意見を「図解化」してみる(10分〜)
複数の意見が出た際に、それぞれの意見のポイント、根拠、目的などを簡単な図や箇条書きで整理してみましょう。対立しているように見えても、実は目的が同じだったり、一部に共通する要素があったりすることに気づくことがあります。 * 意見A: ポイントX (根拠Y), 目的P * 意見B: ポイントA (根拠B), 目的Q * 共通点: Z * 相違点: W
ノートの片隅やデジタルツールを使って、視覚的に整理することで、感情ではなく論理で状況を把握する練習になります。
トレーニング3:ニュース記事で「登場人物の立場」を想像する(通勤中など)
ビジネス関連のニュース記事を読む際に、記事に登場する企業の担当者や関係者が、どのような立場で発言しているのか、その発言の裏にはどのような目的や制約があるのかを想像してみましょう。 例えば、ある業界団体の声明を読んだら、「なぜ今、この声明を出したのだろう?」「この声明で最も利益を得るのは誰か?」「一方で、どのような立場の人々はこの声明に反対するだろうか?」などと考えてみます。これは、相手の立場を理解する思考の良い訓練になります。
トレーニング4:「もし自分が相手だったら」で代替案を考える(15分〜)
もし自分が、反対意見を述べている相手と同じ立場、同じ情報、同じ目的を持っていたら、どのような別の解決策を考えるだろうか、とシミュレーションしてみる練習です。 自分の元のアイデアに固執せず、相手の意見を起点にして、そこから「もし」を重ねて発想を広げてみます。「相手の意見+自分の知識」「相手の意見+別の視点」など、要素を組み合わせることで、新しい案が生まれやすくなります。
小さな成功体験を積み重ねる
これらのトレーニングは、すぐに大きな成果として現れるものではないかもしれません。しかし、日々の業務で意識的に取り組むことで、少しずつ相手の真意を汲み取れるようになったり、意見対立を冷静に分析できるようになったり、より建設的な提案ができるようになったりといった変化を感じられるはずです。
マニュアル外の状況で求められる合意形成のスキルは、一朝一夕に身につくものではありませんが、実践的な思考トレーニングを通じて着実に向上させることができます。まずは、ご紹介したトレーニングの中から一つでも、今日から意識して取り組んでみてはいかがでしょうか。小さな成功体験を積み重ねることが、自ら考えて動ける「知恵」を育む確かな一歩となります。