『これでいいか』から脱却!自分の考えを『あえて疑う』思考トレーニング
マニュアル通りに進まない状況で、自分で考え判断し、行動する力が求められています。しかし、いざ自分で考えてみると、「この考えで本当に大丈夫だろうか」「もっと良い方法があるのではないか」と不安になったり、つい慣れたパターンで考えてしまったりすることはないでしょうか。
「これでいいか」と立ち止まらず、自分の考えをさらに深め、精度を高めるためには、意図的に自分の思考に「疑い」を差し挟むトレーニングが有効です。このプロセスを経ることで、より多角的で頑健な考えを生み出すことができるようになります。
なぜ自分の考えを『あえて疑う』必要があるのか
私たちは日々の思考において、無意識のうちに様々なバイアスや前提に影響されています。「こうに違いない」「いつもこうだったから」といった思い込みは、思考のスピードを上げる一方で、より良い可能性を見落としたり、リスクに気づけなかったりする原因にもなります。
自分の考えを「あえて疑う」ことは、こうした思考の偏りを修正し、より客観的に、そして多角的に物事を捉える助けとなります。
- 思考の穴やリスクを発見する: 自分の考えの弱い部分や、想定していなかったリスクに気づくことができます。
- より質の高いアイデアを生み出す: 一つの結論に固執せず、 alternative(代替案)を検討することで、より創造的で効果的な解決策が見つかりやすくなります。
- 判断の精度を高める: 根拠を問い直したり、異なる視点から検討したりすることで、より確かな情報に基づいた意思決定が可能になります。
- 他者への説明力・説得力を高める: 自分の考えを様々な角度から検討しておけば、相手からの質問や反論にも自信を持って対応できます。
これは、単に批判的になることとは異なります。自分の考えを一旦対象化し、より良いものにするための建設的なプロセスなのです。
自分の考えを『あえて疑う』具体的な思考トレーニング
では、どのようにすれば自分の考えを意図的に「疑う」ことができるのでしょうか。日々の業務の中で実践できる具体的なトレーニング方法をいくつかご紹介します。通勤中や少しの隙間時間でも試せるように、短い時間で取り組める問いかけ形式で実践してみましょう。
トレーニング1:『反証』を探すワーク
自分の考えや結論が出たら、それとは逆の視点から、その考えが間違っている可能性を探るワークです。
実践方法: 自分の考えや判断を紙に書き出します。次に、以下の問いを自分に投げかけ、答えを探してみます。
- 「なぜ、この考えはうまくいかない可能性があるだろうか?」
- 「この考えを否定する証拠やデータは何かあるだろうか?」
- 「この考えの最も弱い点はどこだろうか?」
- 「この考えを採用した場合、どんな問題が発生しうるだろうか?」
すぐに答えが出なくても構いません。この問いを持つこと自体が、思考の幅を広げ、リスクに気づく第一歩となります。例えば、「この企画は成功する」と考えたら、「なぜ失敗する可能性がある?」「どんな要因があれば失敗する?」と自問してみるのです。
トレーニング2:『別の視点』で見てみるワーク
自分の考えを、自分以外の誰か、あるいは別の立場の視点から見てみるワークです。
実践方法: 自分の考えや判断、提案について、以下の人になったつもりで考えてみます。
- 「もし、顧客だったら、この考え(商品・サービス・提案など)をどう思うだろうか?」
- 「もし、競合他社だったら、これに対してどう反応するだろうか?」
- 「もし、上司だったら、この考えにどんなアドバイスや懸念を示すだろうか?」
- 「もし、入社1年目の新入社員だったら、この考えは理解できるだろうか?」
- 「もし、5年後の自分だったら、この時の判断をどう評価するだろうか?」
異なる視点を取り入れることで、自分一人では気づけなかった課題や改善点が見えてきます。特に、ステークホルダー(利害関係者)の視点を取り入れることは、より多くの人にとって受け入れられやすい、あるいは効果的な考えを生み出す上で非常に重要です。
トレーニング3:『根拠』を徹底的に問い直すワーク
自分の考えの基盤となっている「根拠」に対して、「本当にそうか?」と深く問いかけるワークです。
実践方法: 自分の考えや主張を支える根拠や情報源を特定し、以下の問いを投げかけます。
- 「この根拠は、本当に信頼できるだろうか? 情報源は明確か?」
- 「この根拠以外に、自分の考えを支持するものはあるだろうか?」
- 「この根拠は、自分の考えを本当に十分に裏付けているだろうか? 論理的な飛躍はないか?」
- 「この根拠を別の角度から解釈することはできないだろうか?」
例えば、「〇〇のデータから、この市場は縮小傾向にある」と考えたとします。この根拠である「〇〇のデータ」はいつのデータか? どのような調査方法か? そのデータに偏りはないか? 他に市場拡大を示すデータはないか? などと問い直すことで、より正確な状況認識につながります。
トレーニング4:『最悪・最高シナリオ』を想定するワーク
自分の判断や行動の結果として起こりうる、極端なシナリオを考えるワークです。
実践方法: 自分の考えや判断に基づいて行動した場合の「最悪のシナリオ」と「最高のシナリオ」を具体的に想像してみます。
- 「もしこの通りに実行したら、最悪の場合、何が起こるだろうか?」
- 「その最悪の事態を防ぐ、あるいは影響を最小限にするために、今できることは何だろうか?」
- 「もしこの通りに実行したら、最高のシナリオとして何が実現するだろうか?」
- 「その最高のシナリオを実現するために、さらにできることは何だろうか?」
最悪のシナリオを想定することは、潜在的なリスクへの備えにつながります。一方、最高のシナリオを考えることは、目標をより明確にし、モチベーションを高める効果があります。
日常業務で実践するヒント
これらのトレーニングを、特別な時間を取って行う必要はありません。日々の業務の中の短い時間で意識的に取り組むことが大切です。
- メールや資料を作成する前に: 伝えたい内容について、「相手がこれを読んだら、どんな疑問を持つだろう?」「誤解される可能性はないか?」と一瞬立ち止まって考えてみる。
- 会議での発言前に: 自分の意見に対して、「これとは逆の考えはないか?」「自分の意見の根拠は十分か?」と問いかけてみる。
- 業務に取り掛かる前に: その業務の進め方について、「このやり方で本当に効率的か?」「もっと良い手順はないか?」と自問してみる。
- 他者からの提案を聞いた後に: その提案を鵜呑みにせず、「この提案のメリット・デメリットは?」「もしこの提案がうまくいかなかったら?」と考えてみる。
これらの問いかけを習慣にすることで、あなたの思考は徐々に洗練され、精度を高めていくでしょう。
このトレーニングがもたらす変化
自分の考えを「あえて疑う」トレーニングを続けることで、以下のような変化を実感できるようになります。
- マニュアルがない状況でも、自分の判断に自信を持てるようになる。
- 予期せぬ問題やリスクに対して、早期に気づき、対処できるようになる。
- 単なる「思いつき」ではない、根拠に基づいた説得力のある提案ができるようになる。
- 固定観念にとらわれず、柔軟な発想ができるようになる。
- 他者からの意見やフィードバックを、建設的に受け止め、活用できるようになる。
まとめ
マニュアル依存から脱却し、自ら考えて動けるようになるためには、自分の「考える力」そのものを磨くことが不可欠です。そして、思考の質を高めるためには、生まれた考えを「これでいいか」で終わらせず、意図的に疑い、検証するプロセスが非常に重要です。
今回ご紹介した「反証を探す」「別の視点で見る」「根拠を問い直す」「最悪・最高シナリオを想定する」といったワークは、すぐにでも取り組める具体的なトレーニング方法です。日々の業務の中で少しずつ意識し、習慣化することで、あなたの思考は着実に深まり、マニュアル外の状況でも自信を持って判断・行動できる「知恵」へと繋がっていくはずです。ぜひ、今日から実践してみてください。