不測の事態に強くなる!マニュアルにない状況でのリスク判断と対応策
マニュアルが整備された業務は効率的ですが、ビジネスの現場では常にマニュアル外の状況が発生します。予期せぬトラブル、新しいプロジェクト、変化する市場環境など、不測の事態に直面した際、どのように判断し行動すれば良いのでしょうか。
このような状況で自ら考え、最適な道を選択するために不可欠なのが「リスク判断力」です。マニュアルに書かれていない状況では、潜在的なリスクを正しく理解し、それに対してどのように備え、対処するかが問われます。
この記事では、マニュアル外の状況におけるリスク判断の考え方と、その能力を養うための具体的なヒントをご紹介します。リスクを恐れるのではなく、適切に管理し、不確実な状況でも自信を持って行動できる知恵を育みましょう。
なぜマニュアル外の状況でリスク判断が重要なのか
定型的な業務ではマニュアルが手順や注意点を明確に示してくれますが、マニュアルが存在しない、あるいは通用しない状況では、全ての判断を自分で行う必要があります。
この時、単に「なんとなく大丈夫だろう」と進めたり、「どうすれば良いか分からない」と立ち止まってしまったりすると、予期せぬ問題が発生したり、貴重な機会を逃したりする可能性があります。
リスク判断とは、起こりうる可能性のある不都合な出来事やその影響を事前に予測し、それに対して準備や対策を講じることです。これにより、問題の発生確率を下げたり、問題が発生した場合の影響を最小限に抑えたりすることが可能になります。マニュアルに頼れない状況で主体的に動き、成果を出すためには、リスクを正しく見極める力が求められるのです。
マニュアルにない状況でリスクを「見つける」ための思考
マニュアル外の状況では、何がリスクになるのか自体が見えにくい場合があります。リスクを特定するためには、以下のような思考やアプローチが役立ちます。
- 多角的な視点を持つ: 一つの側面だけでなく、顧客視点、社内視点(他部署含む)、時間軸(短期・長期)など、様々な角度から状況を観察します。これにより、見落としがちなリスクに気づきやすくなります。
- 「もし~だったら?」と問いを立てる: 進めようとしていることに対し、「もしこれがうまくいかなかったら?」「もしこの情報が間違っていたら?」「もし〇〇さんが急にいなくなったら?」といった問いを立てて想像を巡らせます。ネガティブな可能性を意図的に考えることで、リスクの芽を発見します。
- 過去の経験や失敗から学ぶ: 自分自身の過去の失敗はもちろん、同僚や他社の事例、ニュースなどで知ったトラブルから、どのような要因がリスクにつながるかを学びます。類似の状況に直面した際に、「あの時はこうだったから、今回も同じリスクがあるかもしれない」と気づくことができます。
- 情報収集と専門家への相談: 不慣れな分野であれば、関連情報を調べたり、その分野に詳しい人に話を聞いたりすることが重要です。自分一人で考え込まず、外部の知見を取り入れることで、想定外のリスクに気づくことがあります。
特定したリスクを「評価し、優先順位をつける」考え方
リスクを特定したら、それら全てに等しく対応することは現実的ではありません。限られた時間や資源の中で、どのリスクに優先的に対処すべきかを判断する必要があります。
リスクの評価には、一般的に以下の2つの要素を組み合わせる考え方が有効です。
- 発生可能性(Probability): そのリスクがどのくらいの確率で起こりうるか。高いのか低いのか。
- 影響度(Impact): そのリスクが現実になった場合、どのくらいの損害や問題が発生するか。小さいのか大きいのか。
例えば、発生可能性は低いが影響度が非常に大きいリスク(例:会社の信用失墜につながる情報漏洩)と、発生可能性は高いが影響度が小さいリスク(例:資料の誤字脱字)があった場合、どちらに優先的に対応すべきか状況によって判断が分かれます。
「発生可能性 × 影響度」でリスクの大きさを簡易的に評価し、より積が大きいものや、どうしても回避したい重大な影響を持つものから優先的に対応策を検討します。全ての可能性を潰そうとするのではなく、現実的に対応可能な範囲で、影響が大きいものや発生しやすいものに焦点を当てることが大切です。
リスクに「対応する」ための思考と選択肢
リスクを評価し優先順位をつけたら、具体的な対応策を検討します。リスクへの主な対応策の考え方はいくつかあります。
- 回避(Avoidance): そのリスクが発生する可能性のある活動そのものをやめる、または別の方法に変更する。
- 軽減(Mitigation): リスクの発生確率を下げるための対策や、発生した場合の影響度を小さくするための対策を講じる。
- 移転(Transfer): リスクの影響を第三者に移す。保険への加入や、業務の一部を外部委託するなど。
- 受容(Acceptance): リスクの発生可能性や影響度が許容範囲内であると判断し、特別な対策は講じずに受け入れる。ただし、何も対策しないのではなく、「発生したらこうする」という計画(コンティンジェンシープラン)を立てておく場合もあります。
マニュアル外の状況では、これらの選択肢を柔軟に組み合わせることが求められます。例えば、新しい企画を進める際に、完全に回避するのではなく(回避すると機会損失)、リスクを軽減するための事前テストを行い、それでも発生しうる残存リスクは影響が限定的なら受容する、といった判断です。
最適な対応策は一つではありません。状況、目標、利用可能なリソース(時間、予算、人員など)を考慮し、複数の選択肢を比較検討し、最もバランスの取れた方法を選択する思考が重要です。
日々の業務でリスク判断力を磨くヒント
リスク判断力は、特別な訓練だけでなく、日々の意識と実践によって確実に向上します。
- 「最悪のケース」を想像する習慣: 何か新しいことを始める前や、重要な判断をする際に、短時間で良いので「もしこれが失敗したら、最悪どうなるだろうか?」と考えてみましょう。必要以上に恐れるのではなく、起こりうる最悪のシナリオとその影響を具体的に想像することで、事前に備えるべき点が見えてきます。
- ニュースや他部署の事例を「自分事」として考える: 他で発生したトラブルやリスク関連のニュースを見た際に、「もし自分の業務で同じことが起こったら、どのような影響があるだろうか?」「自分ならどう備えるか?」と考えてみましょう。
- 小さなリスクで「試す」: 全てを完璧に予測・対応しようとせず、小さなリスクが伴うことでも、許容範囲内であればまず試してみることも重要です。実際に経験することで、机上の空論では得られない学びや、リスクへの対応スキルが身につきます。
- 同僚や先輩とディスカッションする: 抱えている懸念や、判断に迷う状況について、他の人と話し合ってみましょう。自分では気づかなかったリスクや、多様な対応策のアイデアを得られることがあります。短時間の立ち話でも効果があります。
まとめ
マニュアル外の不測の事態は、私たちに主体的な判断を求めます。この時、闇雲に動くのではなく、リスクを正しく理解し、評価し、適切に対応する思考プロセスが非常に重要になります。
リスク判断力は、生まれ持った才能ではなく、日々の意識と実践によって誰でも高めることができます。完璧なリスク予測は不可能ですが、起こりうる可能性と影響を検討し、冷静に対応策を講じることで、不確実な状況でも恐れずに、より良い成果へと繋がる行動を選択できるようになるでしょう。
この記事でご紹介したヒントを参考に、ぜひ今日からリスクを読み解く思考を業務や生活に取り入れてみてください。それが、マニュアル依存から脱却し、自ら考え行動できる「知恵」を育むための一歩となるはずです。