マニュアルを超えて『納得』を生む!考えたことを『伝わる言葉』にする思考術
マニュアル通りではない状況に直面し、自分で考え、最善だと判断したアイデアや提案が生まれたとします。しかし、それを周囲に伝えた際に、期待したような反応が得られない、理解してもらえない、協力してもらえない、といった経験はないでしょうか。
自ら考えて動く力を養うことは非常に重要ですが、その考えを他者に「伝わる言葉」にし、「納得」を生み出す力も、マニュアル外で成果を出すためには不可欠な「知恵」の一部です。どんなに素晴らしいアイデアも、伝わらなければ存在しないのと同じになってしまいます。
この記事では、あなたが考え抜いたアイデアや提案を、相手にしっかりと届け、共感や行動を引き出すための「伝わる言葉にする思考術」をご紹介します。日々の業務の中で意識し、実践することで、あなたの思考はさらに価値を持ち、周囲を動かす力へと変わっていくはずです。
なぜ考えたことが『伝わらない』のか?
一生懸命考えたのに、相手にうまく伝わらない、響かない原因は、主に以下の点にあります。
- 情報の整理不足: 自分が何を最も伝えたいのか、その根拠は何か、といった情報が自分の中で整理されていない。
- 相手視点の欠如: 聞き手が何に関心があるのか、どの程度の予備知識があるのか、どんな懸念を持っているのか、といった相手の状況を考慮せずに話してしまう。
- 論理的な構成の欠如: 話の順序がバラバラで、結論が不明確だったり、根拠と結論が繋がっていなかったりする。
- 言葉選びの不適切: 専門用語を多用したり、抽象的な表現ばかりで具体的なイメージが湧かなかったりする。
- 目的意識の不明確さ: 相手に何を理解してもらいたいのか、どうなってほしいのか、といった伝えること自体の目的が曖昧である。
これらの課題を克服し、考えたことを「伝わる言葉」にするためには、単に「話す練習」をするだけでなく、考えを整理し、相手に合わせて組み立てる「思考」が重要になります。
考えを『伝わる言葉』にするための思考ステップ
自分の考えを相手に届けるためのプロセスを、いくつかの思考ステップに分けて考えてみましょう。
ステップ1:『何を伝えたいのか』を明確にする(結論ファースト思考)
まず、自分が最も伝えたい「結論」や「提案の核心」は何なのかを、短い言葉で明確にします。「この件で、私は〇〇を提案したい」「課題の本質は△△だと考えます」のように、まず伝えたいことの「核」を言語化します。 これは、マニュアル外の状況で複雑に絡み合った情報を整理し、自分がたどり着いた判断や提案を端的に示すために不可欠なステップです。ここで迷いがあると、その後の説明全体が曖昧になります。
- トレーニング:
- 日々の業務報告や簡単な相談をする際に、「結論から言うと…」と意識して話し始める練習をします。
- 自分のアイデアや提案を、ツイッターの140字やメールの件名のように、短く要約する練習をします。
ステップ2:『なぜそう考えたのか』を整理する(根拠の論理的構成思考)
次に、その結論に至った「根拠」や「理由」を整理します。「なぜそう言えるのか?」「どんな事実に基づいているのか?」「期待される効果は?」といった問いを自分に投げかけ、情報を論理的に構成します。 ここで役立つのが、結論(Conclusion)、理由(Reason)、具体例(Example)、結論(Point)の頭文字をとった「PREP法」のようなフレームワークです。結論→理由→具体例→結論、と順番に整理することで、話の筋が通りやすくなります。
- トレーニング:
- ニュース記事や書籍を読み、筆者の主張とその根拠を分析する練習をします。「著者の結論はこれだ」「その根拠として〇〇と△△が挙げられているな」のように、主張と根拠のセットを見抜く習慣をつけます。
- 自分の過去の成功や失敗について、「結論(何が起きたか)」と「理由(なぜそうなったか)」をセットで書き出す練習をします。
ステップ3:『誰に伝えるのか』を深く理解する(相手視点思考)
これが最も重要で、かつ最も抜け落ちやすいステップです。あなたの考えを伝える相手は誰でしょうか?上司、同僚、部下、顧客、他部署の人…。相手によって、前提知識も関心事も、求める情報も異なります。 相手が「何を知っているか」「何に困っているか」「何に関心があるか」「最終的にどうしてほしいのか」を徹底的に考えます。相手にとっての「メリット」や「関心事」に焦点を当てることで、あなたの話を聞くモチベーションを高めることができます。
- トレーニング:
- 会議や打ち合わせで誰かに説明する前に、その相手が「何を知りたいか」「何に懸念を持つか」を3つリストアップしてみます。
- 顧客や社内関係者と話す際に、「もし自分がこの人の立場だったら、何に最も関心を持つだろうか?」と自問する習慣をつけます。
ステップ4:『どう伝えれば響くか』を組み立てる(言葉と構成の調整思考)
ステップ1~3で整理した内容を、相手に合わせて最適な言葉と構成で組み立てます。専門用語は平易な言葉に置き換えたり補足説明を加えたりします。抽象的な話には具体的な事例や数字を交え、相手がイメージしやすいように工夫します。 相手の関心が高いことから話し始めたり、ストーリーテリングの手法を取り入れたりするのも効果的です。相手にとっての「自分事」として捉えてもらえるような言葉選びを心がけます。
- トレーニング:
- 同じ内容を、全く異なるバックグラウンドを持つ人(例: 専門家と全くの初心者)に説明する練習をします。どのように言葉や例えを変える必要があるか考えます。
- 短い業務報告や提案を、一度文章に書き出してみます。その後、「もっと分かりやすくできないか?」「相手が一番知りたい情報は何か?」という視点で推敲してみます。
日々の業務で取り組める『伝わる言葉』トレーニング
特別な時間を取らなくても、日々の業務の中で「伝わる言葉にする思考」を鍛えることができます。
- 『要するに?』と自問する習慣: 自分の考えや聞いた話をまとめる際に、「結局、一番言いたいこと(重要なこと)は何だろう?」と常に問いかけ、短く言語化する習慣をつけます。
- 『なぜ?』と『たとえば?』を使う習慣: 自分の説明に根拠や具体性が足りないと感じたら、「なぜそうなのか?」「たとえばどういうことか?」を自問し、情報や例を追加する習慣をつけます。
- 『もし自分が聞き手なら?』と想像する習慣: 誰かに何かを伝える前に、「もし自分がこれを初めて聞く聞き手だったら、何が分からなくて、何に関心を持つだろうか?」と立ち止まって想像する習慣をつけます。
- フィードバックを求める勇気: 説明した後や提案をした後に、信頼できる同僚や上司に「今の説明、分かりにくかった点はありませんでしたか?」と率直にフィードバックを求めます。客観的な視点は学びを加速させます。
- 短い時間で説明する練習: エレベーターに乗っている間に話すような「エレベーターピッチ」を意識し、自分のアイデアや考えを1分や3分といった短い時間でまとめて説明する練習をします。
『伝わる言葉』がもたらす変化
考えたことを「伝わる言葉」にする力を高めることは、あなたのビジネスにおける影響力を大きく向上させます。
- あなたのアイデアや提案が正当に評価され、実現につながりやすくなります。
- 周囲からの理解や協力を得やすくなり、チームで大きな課題を乗り越えることが可能になります。
- 指示待ちではなく、自ら状況を判断し、周囲を巻き込みながら主体的に動けるようになります。
- 顧客に対して、製品やサービスの真の価値を効果的に伝え、信頼関係を築くことができます。
これらの変化は、まさにマニュアル外の状況でこそ求められる、自律的に考え行動できるビジネスパーソンになるための重要なステップです。
まとめ
マニュアルに頼らず自ら考えて動くためには、考えを深めるだけでなく、それを他者に効果的に伝える力が必要です。考えたことを「伝わる言葉」にする思考術は、結論の明確化、根拠の整理、相手視点の理解、そして言葉と構成の調整というステップから成り立ちます。
これらの思考は、日々の業務の中で意識し、小さなことから実践していくことで着実に磨かれていきます。「要するに?」「なぜ?」「たとえば?」「もし自分が聞き手なら?」といった自問自答や、フィードバックを求める姿勢が、あなたの「伝達力」を大きく高めるでしょう。
あなたの考えが「伝わる言葉」となり、周囲を動かし、より良い結果を生み出すことを願っています。まずは、次に誰かに何かを伝える際に、「どうすればこの人に一番伝わるだろうか?」と考えることから始めてみてください。