動きながら考える力を鍛える 不確実性下での『実行・評価・調整』サイクル入門
マニュアル外の状況で立ち止まっていませんか?
日々の業務において、マニュアルや過去の経験がそのまま通用しない状況に直面することは少なくありません。特に変化の激しい現代ビジネスでは、想定外の出来事や、何が正解か見えにくい状況が増えています。このような時、どのように対応すれば良いか迷い、指示を待ってしまったり、考えすぎて行動に移せなかったりすることはないでしょうか。
自ら考えて動ける人材になるためには、完璧な答えがない状況でも、立ち止まらずに前へ進む力が必要です。そのための一つの有効な方法が、「動きながら考える」ことです。これは、最初からすべてを計画するのではなく、まず小さな一歩を踏み出し、その結果を見ながら考え、次の一手を調整していくサイクルを回すことを意味します。
この記事では、不確実な状況下で役立つ「実行・評価・調整」サイクルについてご紹介します。このサイクルを日々の業務に取り入れることで、自律的に課題を乗り越え、学びを深める力を養うことができるでしょう。
『実行・評価・調整』サイクルとは
「実行・評価・調整」サイクルとは、文字通り「まず実行する」「その結果を評価する」「評価に基づいて次に取るべき行動を調整する」という3つのステップを繰り返す考え方です。これは、計画通りに進めることが困難な状況や、前例のない課題に取り組む際に特に有効です。
- 実行 (Execute): 考えられる最も良い(あるいは、実行可能な)最初のステップを踏み出す。
- 評価 (Evaluate): 実行した結果どうなったかを観察し、分析する。
- 調整 (Adjust): 評価で得られた情報をもとに、次の実行計画やアプローチを修正する。
このサイクルは、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルと似ていますが、不確実性の高い状況においては、Plan(計画)に時間をかけすぎず、まずDo(実行)から入る、あるいはPlanとDoが同時に進行するニュアンスが強いと言えます。ビジネス環境が速く変化する中で、完璧な計画を待つよりも、迅速に実行して市場や状況の反応を見る方が、結果的に効率的で質の高い解にたどり着ける場合が多いのです。
サイクルを回すための具体的なステップ
では、この「実行・評価・調整」サイクルをどのように日々の業務に取り入れれば良いのでしょうか。それぞれのステップで意識したいポイントをご紹介します。
ステップ1:まずは『小さく実行』する
完璧な答えが見えない時、最初の一歩は誰でも不安を感じるものです。この段階で重要なのは、「完璧な計画」や「絶対の成功」を目指さないことです。
- 仮説を持つ: 何か行動を起こす前に、「こうなるのではないか」「これを試したらどうなるだろう」という簡単な仮説を持つようにします。これは、後の評価の基準となります。
- 小さなステップで始める: 一気に大きなことをするのではなく、影響範囲が小さく、修正しやすい最初の一歩を考えます。例えば、新しい提案をする前に少数の同僚に意見を聞く、いきなり大規模な資料を作るのではなくラフ案だけ作ってみる、といった具合です。
- 「まずはやってみる」のマインドセット: 「失敗したらどうしよう」と考えるより、「まずはやってみて、そこから学ぼう」と考える姿勢が大切です。失敗は評価のための貴重な情報源と捉えましょう。
通勤時間や休憩時間など、わずかな時間を使って「今日、小さく試せること」を考えてみるのも良いでしょう。
ステップ2:結果を『評価』する
実行した後は、必ずその結果を客観的に観察し、評価します。
- 何が起きたかを見る: 自分が期待した通りになったか、あるいは予期せぬ結果が生じたかなど、具体的に何が起こったかを注意深く観察します。
- なぜそうなったかを考える: その結果が生じた要因を分析します。自分の行動のどの部分が結果に影響したのか、外部環境の変化はどう影響したのかなどを考えます。仮説を立てていた場合は、その仮説が正しかったか、あるいはどのように修正すべきかなどを検討します。
- 記録を取る: 実行したこと、その結果、そしてそこで考えたことを簡単にメモしておくと、後で振り返る際に役立ちます。手帳やメモアプリなど、自分が継続しやすい方法で構いません。
ステップ3:次に取るべき行動を『調整』する
評価で得られた学びを元に、次の行動計画を修正します。
- 軌道修正: 最初の仮説や計画が間違っていたとしても、それは貴重な学びです。評価結果に基づき、次の実行で何をどう変えるべきかを具体的に考えます。
- 次の小さな一歩を設定: 調整した新しいアプローチに基づき、再び「小さく実行できる」次のステップを設定します。
- 必要に応じて情報の探索や相談: 評価の結果、自分の知識や視点だけでは判断が難しい場合は、関連情報を調べたり、信頼できる同僚や上司に相談したりすることも重要です。
このステップでは、「評価から何を学び、どう改善につなげるか」が問われます。前向きな姿勢で学びを次につなげる意識が大切です。
サイクルをスムーズに、そして継続的に回すために
このサイクルを習慣化し、より効果的に活用するためには、いくつかのヒントがあります。
- 仮説思考を意識する: 実行前に「こうなるだろう」という仮説を持つことで、評価の際に「なぜ hypothesis と結果が違ったのだろう?」と考えることができ、学びが深まります。
- 失敗を恐れない文化を作る(個人のマインドとして): 失敗はサイクルを回す上での「データ収集」だと考えます。完璧にやろうとして動けないことの方が、多くの機会損失につながる可能性があります。
- フィードバックを求める: 自分の実行や評価が客観的か不安な場合は、周囲にフィードバックを求めることで、より多角的な視点を得られます。
- 短い時間で実践する: 全ての業務でこのサイクルを意識するのは大変かもしれません。まずは「今日のこのタスクで、一つだけ試してみよう」「明日の午前中の業務で、少しだけやり方を変えてみよう」というように、短時間で実行・評価・調整できることから始めてみてください。通勤中にその日の「試すこと」を考え、帰りの電車で「どうだったか」を振り返るだけでも効果があります。
このサイクルは、一度身につければ、新しい業務、予期せぬトラブル対応、顧客との関係構築など、マニュアルがない様々な状況で応用できる普遍的な思考・行動パターンとなります。
サイクル定着がもたらす変化
「実行・評価・調整」サイクルを意識的に回す習慣が身につくと、以下のような変化を感じられるでしょう。
- 指示待ちからの脱却: 正解が見えなくても、まず自分で考え、一歩を踏み出すことができるようになります。
- 不確実性への対応力向上: 状況変化への適応が早くなり、予期せぬ問題にも冷静に対応できるようになります。
- 自律的な学習能力の向上: 自分の行動から学びを得て、次に活かす力が養われます。これは、日々の経験がそのまま自己成長につながることを意味します。
- 問題解決能力の向上: 試行錯誤を通じて、より効果的な解決策を見つけ出す力がつきます。
まとめ
マニュアルに頼れない状況で、自ら考えて動き、成果を出すためには、「実行・評価・調整」サイクルを意図的に回すことが非常に有効です。最初から完璧を目指すのではなく、仮説を持ち、小さく実行し、その結果を丁寧に評価し、次の行動を調整する。このプロセスを繰り返すことで、不確実な状況でも立ち止まらず、変化に対応しながら学びを深めることができるようになります。
まずは、日々の業務の中で「小さく試せること」を見つけ、今日からこのサイクルを意識してみてはいかがでしょうか。その小さな一歩が、自律的に考えて行動できる「知恵」を育む大きな力となるはずです。